「今日で最後なのって変な感じね。」


彼女は少し寂しそうに呟いた。


そう呟く横顔さえも美しかった。


車はネオンの夜道を颯爽と走り抜ける。


さぁ、行こうdaiceのホームグラウンドへ...















某日、休日の夕方午後5時頃、daiceはいつも通り一人でストリートナンパをしていた。

その日の結果がどうだったかはもう覚えていない。

さして興味の湧かない女に対して連続してアプローチを続け、LINEを交換したり、連れ出したりしたと思う。

そのうちの誰かを抱けたらそれでいい。

所詮はワンナイトラブだ。

一時的な刺激と快感さえあればそれで良い。

それでも何万回と繰り返された声掛けのアプローチは流れるように自然と出てくる。

声掛けや連れ出し、LINE交換の打診の言葉を発すると共に次の返答に対するリカバリーを瞬時に思考する。



そんな事をしながら、街を歩いている時だった。




ロングスカートのタイトなワンピースの女性が前を歩いていた。

後ろからでも感じる美女の雰囲気。

daiceは無意識のうちに彼女を追いかけていた。


15m


10m


5m


横に並びながら横目で彼女を見る。

間違いない。

茶髪のロングの髪が綺麗に流れており、色白、そしてスラッとした体型。

daiceのタイプにドンピシャだ。

右斜め前30度の角度から何万回と使ったオープナーをぶつける。

「え、めっちゃ歩き方うまくね?」

彼女は少し驚いた表情と警戒の目でこちらを見る。

「え?」

「だから、めちゃくちゃ歩き方が上手いなって。」

「ふふ、初めて言われた。」

彼女は男性に対してマウントを取ってくるタイプだと言うことはすぐにわかった。

自己開示、時間制限をしてから声をかけたストーリーを語る。

「この後同期と飲み会なんだけど、自粛するのもストレスで早く来て買い物しようと思った。それがお店がやってなくて歩いてる時に綺麗なお姉さんが見つけた。今声をかけないと後悔すると思った。」

速攻で作ったストーリーとしてはこんなとこだろうか。

彼女は今から男友達と2人で飲みに行くという。
付き合ってはいないが月に一度いっているようだった。

「お兄さんクラブにおりそうですね。見た事あるような気がする。」

「そうなんだ。その人に抱かれた?」

「いや、抱かれてないです。」

LINE交換打診。



「アッシーくんになってくれるならいいですよ。」



彼女からの"クソテスト"だった。

daiceはこういう質問に対する返答は「それは嫌だ。」でも「男として見てほしい」でもない事を知っていた。



daiceはそれまでのマシンガントークからは一呼吸おき、そして少しドSな目で彼女の目を捉えて答えた。




「そういう女も嫌いじゃないよ。」






番ゲ





彼女と別れた後、daiceは思わずガッツポーズをしてしまった。
ドンピシャの美女のLINEを聞いたことに顔がニヤける。





LINEはスムーズに進んだ。
彼女とは翌週の日曜日にアポを取り、ご飯を食べた。
もちろん即を狙うが結論は負け。
居酒屋からのバーでよく飲んだし、もちろんホテルに誘った。
ホテルには行きたくないが一緒にいたいという。
終電ギリギリまで2人で散歩してベンチで話した。
印象に残った会話として帰り際の改札の前で「ほら、お別れのキスは?」と言うとしっかり彼女からキスをしてきたことくらいだろうか。

そしてその週の金曜日の仕事終わり2回目のアポ。
これも結論は負け。
居酒屋からのバーに行き、生理という話は聞いていたもののホテル連れ出し。
ホテルに泊まり、ギラついたものの生理2日目でどうしても出来ないという。


そしてさらに2週間後の土曜日。
この日は午前中に集合し、海の方へドライブしながら海鮮丼を食べに行った。

海鮮丼で胃袋が満たされ、ちょっとした観光地をコンビニのインスタントのアイスコーヒーを片手に散歩し、海岸へ車を走らせた。

16:00

太陽は傾いてきており、過ごしやすい気温になってきた。
海岸近くの石段に座り、海を見ながら話した。

彼女と会うのは最初の出会いも含めて4回目だ。

ナンパ師にとって女を好きになるのは御法度である。

それを界隈では"オンリーワン中毒"というらしい。


SEXもしていない女を好きになると主導権などが取られやすく口説きに関しては上手くいかない事が多く、それを一種の病気と認知されている。

オンリーワン中毒になった場合の治療法は、とにかく他の女をナンパして、口説いて、SEXする他にないのだ。

しかしdaiceはそんな事どうでも良かった。

ナンパ師が人を好きになって何が悪い。

なにがPUAだ。





"俺はいま、横にいる女が好きだ。"





「あのさ、俺はお前の事が好きだ。付き合ってほしい。」




daiceはついに言ってしまった。
普段はすぐにキスやSEXをするのに"好き"という言葉を言うだけで緊張するもんだな、なんて冷静にも考えていた。




「今は友達でいて。」




へ?




確かに不安要素はあったものの、いけると思っていた。


それがまさかの即答で保留。


「一度断られたらもう二度と会わないよ。」


ここまで言ったらもう後には引けない。


付き合うか二度と会わないかの二択である。


「それでも今はだめ。もう会わないのは嫌。なんでそんなに意地悪なの?」


彼女の返事は変わらなかった。


負けた。


はよ、損切りして、帰ってストリートしよう。


そう思った。


しかし、帰るのに1時間以上車を走らせなければならない場所にいる。


「じゃあ帰ろうか」


daiceは久しぶりの恋愛に負けた虚しさと多少の後悔が押し寄せた。


やはり先人たちが作ったセオリー通りに好きなんて言わずに先にSEXをするべきだったか。


車を走らせて30分くらいは無言だったかもしれない。


あまりの無言に耐えかねたdaiceが彼女の心境を聞いた。


本当のところなぜ保留だったのか。


「実はわたしセフレが1人いて、その人の事が気になってるの。多分セフレとしか思われてないんだけど、その人との関係にケジメをつけたい。」


なるほど。


初めて彼女の口から本当の事が出てきた。


31歳のバツイチ子持ちの男で元同じ職場の先輩だった。
今も月に一度は会って定期的にSEXしているようだ。


「もう数えきれないほどSEXしたと思う。」


彼女の口からその言葉が出た時、daiceの心の中に黒い感情が渦巻いた。


黒い感情の正体は嫉妬だった。


普段はdaiceが女を性欲処理の道具として扱っているし、その彼と同じ事をしているのにも関わらずdaiceは嫉妬した。


ものの30分ほど前に好きだと伝えた相手からそんな事を聞かされるとは思わず、胸が苦しくなった。




daiceはコンビニの駐車場の車を滑らせた。


トイレに入り、顔を洗って鏡を見た。


目の輝きを失っている男の顔が目の前にあった。


今まで何千人、何万人という女達にアプローチしてきたdaiceが本当にいいなと思える女性にようやく出会えたというのに、今までのように簡単に損切りし、お別れするだけで良いのだろうか。


どうせダメなら最後まで足掻いてみようか。


daiceは本来ナンパ師だ。


ナンパ師らしく最後までギラついて終わろう。


daiceは車に戻り、元気よくもう一度彼女と話し始めた。


「どうせ今日で最後なら、最後に飲みに行こうか」


「最後だしね、いいよ」


daiceは再びアクセルを押し込んだ。













「今日で最後なのって変な感じね。」


彼女は少し寂しそうに呟いた。


そう呟く横顔さえも美しかった。


車はネオンの夜道を颯爽と走り抜ける。


さぁ、行こうdaiceのホームグラウンドへ...









後半へ続く。