まだ街が静まり返っている朝6:30。
daiceは1人目覚め、シャワーを浴びて髭を剃り、髪をセットする。
ジーンズ、ワイシャツ、赤いセーターに紺のダッフルコートを羽織り、チェックのマフラーを巻いた。
イヤホンをせずに街を歩くことが最近の習慣となっており、街の静けさがより際立つ。
記録的な寒波による痛いほどの冷たい風が頬に刺さる。
まだ誰もいないいつものカフェで薄いコーヒーを啜る。
また今日も一日が始まった。
読みかけの小説を開く。
最近は経済小説を読むことが多く、池井戸潤や橘玲の作品を読むことがマイブームとなっていた。
ページを捲りながらふと、今が大学のテスト期間だということを思い出した。
残りの数単位のために勉強をしなければならなかった。
憂鬱な気持ちでノートとプリントを広げ、daiceは味気のない活字と向き合った。
daiceには今夜19時に横浜駅で人と会う予定があった。
女だ。
以前渋谷でストリートナンパをしている時に【キョロちゃん理論】のターゲットを発見し、【3秒ルール】で接近し、【迷った?オープナー】で声掛け、道案内をし、番ゲをした案件だった。
20歳の学生だと言っていた。
レベルで言えば6.5なので、誰もが振り向くような美女ではない。
しかし、daiceにはそんなことどうでもよかった。
今夜に対する特別な思い入れもない。
今夜のミッションはただ1つ。
"ゲームに勝つこと、最速で女を魅了し、抱くこと"
daiceにとって、このゲームは今に始まったことではない。
もうすでに1年以上も前から同じことを繰り返している。
"彼女"という契約をすることにdaiceは興味がなかった。
daiceは心の中で今夜のゲームのポイントを決めた。
『圧倒的なネグと圧倒的な引き』
今日はいつもの2倍ネグり、そして向こうが追ってきた瞬間に圧倒的に引く。
実は2016年になり、今夜は2回目のアポだ。
先日空き時間に既セクを抱いた。
彼女は白いカーディガンに黒いタイトスカートでやってきた。
髪はロングで巻いている。
適当に挨拶を交わし、レストランへ向かう。
月曜日のため、今日は空いていた。
daiceはハートランドのビール、彼女はピーチクーラーを頼んだ。
料理は全てdaiceに任せるとのことで、daiceが全て決めた。
サラダにチゲ鍋、牛スジ煮込みを頼む。
お酒はすぐに運ばれてきた。
2人はグラスを持ち上げた。
「乾杯。それと成人おめでとう。」
いつもと同じように、生い立ちから学校の話、サークル、家族、趣味とじっくり聞き出した。
2人は火の通った鍋をつつき始めた。
彼女に恋愛の話を振ってみた。
【恋愛遍歴引き出しルーティーン】
「夏までいたけど、今はいないの。」
彼女は酒が弱いのか少し頬を赤らめてそう言った。
「最長どれくらい?どうせ2週間くらいでしょ。」
「その人はどんな人?」
「今まで何人と付き合ってきた?まさか3桁?」
「好きな男性のタイプは?ただのイケメン好きでしょ。終わってんな。」
彼女の恋愛遍歴をこれでもかというほど聞き出した。
そして彼女からの質問には適当に答える。
「1〜10の中で好きな数字を思い浮かべて。俺の目を見ながらね。」
daiceは【数字当てゲーム】を仕掛けた。
「7だ。」
すぐにdaiceはそう言った。
「え、すごい。なんでわかったの?」
「7って見えたから。(確率的に7が多いだけ」
和みステップはすでに完了されていた。
次に行こう。
2人はレストランを出た。
【ハンドテスト】
手を繋ぐことに抵抗はないが、まだ強く握り返しては来ない。
すぐ隣にある立飲みのBARに入った。
立飲みのBARなのだが、なぜかソファ席に案内された。
VIPルームのような個室だった。
daiceはソファ席で彼女の隣に横並びに座った。
daiceは白ワイン、彼女はマリブコークを頼んだ。
少しずつ性についての話に移る。
彼女は付き合ってきた人数と経験人数は一致しないようだ。
詳しく掘り下げてみると、その時は満喫でヤッたらしい。
それを聞いて、今夜ホテルに行く予定だったがdaiceも満喫でやることにした。
このスペースなら性的誘惑ステップに移行できると思った。
「キミって甘えたい派?それとも甘えられたい派?」
「甘えたい派だよ」
【甘えさせるルーティーン】
「こんな感じで?」
彼女の肩に腕を回し、ぐっと抱き寄せた。
仕切りの裏では立飲みの人達が賑わっている。
【猫紐理論】
「はい、終わり。」
彼女が完全に身を預けてきたところで、daiceは彼女を一気に突き放し、身を引いた。
彼女は突然の突き放しにかなり驚いているようだった。
【キスの自己採点】
「自分のキスに点数つけるなら何点だと思う?」
彼女の耳元でdaiceは囁いた。
「んー、7点くらいかな。」
彼女は俯きつつそう言った。
「試してみよう。」
BARでキスをした。
予想以上にキスに食いついてきた。
もう充分だった。
「そろそろ出よう。」
2人は手を繋いで満喫の方向へ向かった。
さっきよりも彼女の握りが強くなった。
「あと30分だけ時間もらうよ」
「え、え。」と戸惑っていたが、彼女の返事を一切聞かずにそのまま手を引いて1時間で満喫に入店した。
そこからはルーティーンもナンパ理論も必要なかった。
ただ男と女が欲望のままに動いた。
彼女の服を一枚ずつ脱がせていくと、綺麗な形をした大きな胸が現れた。
女が喘ぎ、腰を仰け反らせる。
daiceは準即した。
ゲームに勝利した。
行為を終えた後、daiceは彼女を抱きしめながらしばらく過ごした。
「あのさ...おっぱい何カップ?」
daiceはずっと気になっていたことを聞いた。
「Fはあるね。」
彼女は自信ありげにそう答えた。
その後も「どんだけキスすりゃ気がすむんだよ」と突っ込みたくなるほど、彼女は唇を重ねてきた。
「名残惜しいけど、そろそろ帰ろう。」
チェックアウトを済ませるとちょうど1時間だった。
満喫では1時間で1200円というコストパフォーマンスだった。
daiceは別に名残惜しくはなかったが、そう優しく言って彼女を改札まで見送った。
〈反省点〉
①そこまでネグりまくる必要もない。
小さなネグを数打つよりも、ここぞ!という場面で強めのネグを1発ぶち込んだほうが効果がある場合もある。
【ネグの大規模集中型】と【ネグの小規模分散型】と名付ける。
今日は【ネグの小規模分散型】だったが、あまり良い効果を実感できてない。
②BARでの引きが、相手の心に火を付けた。daiceはこれを【猫紐理論】と呼んでいる。ごく稀に完全に相手のスイッチをオンしたと実感できる瞬間がある。
この圧倒的な引きは【性の潤滑油】と呼ぼう。