2016年01月

まだ街が静まり返っている朝6:30
daiceは1人目覚め、シャワーを浴びて髭を剃り、髪をセットする。
ジーンズ、ワイシャツ、赤いセーターに紺のダッフルコートを羽織り、チェックのマフラーを巻いた。
イヤホンをせずに街を歩くことが最近の習慣となっており、街の静けさがより際立つ。
記録的な寒波による痛いほどの冷たい風が頬に刺さる。
まだ誰もいないいつものカフェで薄いコーヒーを啜る。
また今日も一日が始まった。
読みかけの小説を開く。
最近は経済小説を読むことが多く、池井戸潤や橘玲の作品を読むことがマイブームとなっていた。
ページを捲りながらふと、今が大学のテスト期間だということを思い出した。
残りの数単位のために勉強をしなければならなかった。
憂鬱な気持ちでノートとプリントを広げ、daiceは味気のない活字と向き合った。








daiceには今夜19時に横浜駅で人と会う予定があった。
女だ。
以前渋谷でストリートナンパをしている時に【キョロちゃん理論】のターゲットを発見し、【3秒ルール】で接近し、【迷った?オープナー】で声掛け、道案内をし、番ゲをした案件だった。
20歳の学生だと言っていた。
レベルで言えば6.5なので、誰もが振り向くような美女ではない。
しかし、daiceにはそんなことどうでもよかった。
今夜に対する特別な思い入れもない。
今夜のミッションはただ1つ。
   
"ゲームに勝つこと、最速で女を魅了し、抱くこと"  

daiceにとって、このゲームは今に始まったことではない。
もうすでに1年以上も前から同じことを繰り返している。
"彼女"という契約をすることにdaiceは興味がなかった。
daiceは心の中で今夜のゲームのポイントを決めた。
『圧倒的なネグと圧倒的な引き』
今日はいつもの2倍ネグり、そして向こうが追ってきた瞬間に圧倒的に引く。
実は2016年になり、今夜は2回目のアポだ。
先日空き時間に既セクを抱いた。











彼女は白いカーディガンに黒いタイトスカートでやってきた。
髪はロングで巻いている。
適当に挨拶を交わし、レストランへ向かう。
月曜日のため、今日は空いていた。
daiceはハートランドのビール、彼女はピーチクーラーを頼んだ。
料理は全てdaiceに任せるとのことで、daiceが全て決めた。
サラダにチゲ鍋、牛スジ煮込みを頼む。
お酒はすぐに運ばれてきた。
2人はグラスを持ち上げた。
「乾杯。それと成人おめでとう。」
いつもと同じように、生い立ちから学校の話、サークル、家族、趣味とじっくり聞き出した。
2人は火の通った鍋をつつき始めた。
彼女に恋愛の話を振ってみた。 
【恋愛遍歴引き出しルーティーン】
「夏までいたけど、今はいないの。」
彼女は酒が弱いのか少し頬を赤らめてそう言った。
「最長どれくらい?どうせ2週間くらいでしょ。」
「その人はどんな人?」
「今まで何人と付き合ってきた?まさか3桁?」
「好きな男性のタイプは?ただのイケメン好きでしょ。終わってんな。」
彼女の恋愛遍歴をこれでもかというほど聞き出した。
そして彼女からの質問には適当に答える。
「1〜10の中で好きな数字を思い浮かべて。俺の目を見ながらね。」
daiceは【数字当てゲーム】を仕掛けた。
「7だ。」
すぐにdaiceはそう言った。
「え、すごい。なんでわかったの?」
「7って見えたから。(確率的に7が多いだけ」
和みステップはすでに完了されていた。
次に行こう。
2人はレストランを出た。
【ハンドテスト】
手を繋ぐことに抵抗はないが、まだ強く握り返しては来ない。






すぐ隣にある立飲みのBARに入った。
立飲みのBARなのだが、なぜかソファ席に案内された。
VIPルームのような個室だった。
daiceはソファ席で彼女の隣に横並びに座った。
daiceは白ワイン、彼女はマリブコークを頼んだ。
少しずつ性についての話に移る。
彼女は付き合ってきた人数と経験人数は一致しないようだ。
詳しく掘り下げてみると、その時は満喫でヤッたらしい。
それを聞いて、今夜ホテルに行く予定だったがdaiceも満喫でやることにした。
このスペースなら性的誘惑ステップに移行できると思った。
「キミって甘えたい派?それとも甘えられたい派?」
「甘えたい派だよ」
【甘えさせるルーティーン】
「こんな感じで?」
彼女の肩に腕を回し、ぐっと抱き寄せた。
仕切りの裏では立飲みの人達が賑わっている。
【猫紐理論】
「はい、終わり。」 
彼女が完全に身を預けてきたところで、daiceは彼女を一気に突き放し、身を引いた。
彼女は突然の突き放しにかなり驚いているようだった。
【キスの自己採点】
「自分のキスに点数つけるなら何点だと思う?」
彼女の耳元でdaiceは囁いた。
「んー、7点くらいかな。」
彼女は俯きつつそう言った。
「試してみよう。」
BARでキスをした。
予想以上にキスに食いついてきた。
もう充分だった。
「そろそろ出よう。」







2人は手を繋いで満喫の方向へ向かった。
さっきよりも彼女の握りが強くなった。
「あと30分だけ時間もらうよ」
「え、え。」と戸惑っていたが、彼女の返事を一切聞かずにそのまま手を引いて1時間で満喫に入店した。



そこからはルーティーンもナンパ理論も必要なかった。
ただ男と女が欲望のままに動いた。
彼女の服を一枚ずつ脱がせていくと、綺麗な形をした大きな胸が現れた。
女が喘ぎ、腰を仰け反らせる。
daiceは準即した。
ゲームに勝利した。
行為を終えた後、daiceは彼女を抱きしめながらしばらく過ごした。
「あのさ...おっぱい何カップ?」
daiceはずっと気になっていたことを聞いた。
「Fはあるね。」
彼女は自信ありげにそう答えた。
その後も「どんだけキスすりゃ気がすむんだよ」と突っ込みたくなるほど、彼女は唇を重ねてきた。
「名残惜しいけど、そろそろ帰ろう。」
チェックアウトを済ませるとちょうど1時間だった。
満喫では1時間で1200円というコストパフォーマンスだった。
daiceは別に名残惜しくはなかったが、そう優しく言って彼女を改札まで見送った。








〈反省点〉
①そこまでネグりまくる必要もない。
小さなネグを数打つよりも、ここぞ!という場面で強めのネグを1発ぶち込んだほうが効果がある場合もある。
【ネグの大規模集中型】と【ネグの小規模分散型】と名付ける。
今日は【ネグの小規模分散型】だったが、あまり良い効果を実感できてない。


②BARでの引きが、相手の心に火を付けた。daiceはこれを【猫紐理論】と呼んでいる。ごく稀に完全に相手のスイッチをオンしたと実感できる瞬間がある。
この圧倒的な引きは【性の潤滑油】と呼ぼう。

強欲は善。

     ゴードン・ゲッコー
         (映画ウルフ・オブ・ウォールストリート)







2016年の1年を通しての目標を設定する。


【栄光の新規案件の年間30ゲット】


去年は20人ほどをゲットした。
記載していないデータもあり、細かい人数がわからない部分もある。
今年はしっかりと記録していき、分析し、栄光の新規案件30ゲットを必ず達成したいと思う。


30(ゲット数)÷12(月)=2.5(ゲット数/1ヶ月)


よって1ヶ月に2.5人ずつゲットしていきたい。
それにあたり去年の確率から計算すると、3回アポがあれば1回は即れる計算だったと思う。
1ヶ月に7〜8アポ組み込む。

番ゲからアポまでの確率も30%くらいだ。
なので1ヶ月に24の番ゲがノルマだ。


1回の2時間の出撃で2番ゲはできる。
それを12回、1週間に2時間の出撃を4回することが必要になる。
これは「ながらナンパ」などの合間時間にカバーすることが可能だ。
むしろこのノルマを達成していれば、それ以上に新規開拓をする必要はない。



栄光の新規案件年間30ゲットへの道

①1週間に4回(2時間)の出撃で2番ゲを繰り返す
②月間24番ゲをノルマとし、7〜8回のアポを組み込む
③そのうち3回は必ず即る



※別途テーマ
『早く、安く、正確に口説くスキルの獲得』


『早く』...1回目のアポで抱けなければ永遠に関わるな。2度目はない。

『安く』...一夜以上の関係になることはなく、お金で魅了する気もない。
ならば、最低限の資金で魅了せよ。

『正確に』...確実に目標を達成するためには、1つひとつのアポやナンパを無駄にできない。人生は有限であり、女だけに捉われず有意義に生きよ。

美魔女

 「魔法をかけているかの様に美しい、才色兼備の35歳以上の女性」








第1章 〜決意〜

最高の準備を備え、最悪の状況を想定する。
これはナンパ、恋愛だけではなく、スポーツ、ビジネス、人生においても同じことが言えるのではないだろうか。
daiceは今夜起こる全てのシチュエーションを頭の中で繰り返し想像し、それに対する答えを模索し続けた。
今夜、大学生のdaiceが美魔女を抱く。
その美しい響きを現実のものとすべく、daiceは決意を固めた。
既にホテルを予約し、その部屋にシャンパンを設置した。
もう後戻りはできない。

「結果はどうであれ、今夜決着をつける決意をしました。もし今日でダメなら美魔女とは永遠にさよならします。」

daiceはいつも応援してくださる師匠にメッセージを送信した。




18:00
「お待たせ。」
彼女はジーンズに白いチェスターコートでやってきた。
多少の年齢の差を感じることはあるが、何度見ても端麗な顔立ちと知的で上品な風格は魅力的だった。
JR桜木町駅から多くの人がみなとみらい側へと流れていく。
2人は流れに逆らい野毛方面へと向かった。





第2章 〜ネオン〜

「かんぱーい」
2人はオリジナルビールで有名なこじんまりとしたレストランで食事をしていた。
オリジナルビールの種類は8種類ほどあり、ハーフサイズで頼み飲み比べるのがこの店の楽しみ方である。
「これコーヒーみたいな味するね。」
そんなことを2人で言いながらお互いのビールを差し出して味見しあう。
そんな些細なやりとりがまるで長年付き合ってきたカップルのようで楽しかった。
彼女がトイレに行っている間にお会計を済ませた。
いつも奢ってもらっているため、今日は奢ろうと思った。
店を出ると、2人は腕を組んで寒さから逃れるかのように寄り添い、再びネオンの街に吸い込まれていった。






第3章 〜カウントダウン〜

2人はみなとみらい方面に向かって歩いていた。
みなとみらいの夜景を眺めながら散歩をする。
「横浜の夜景は素敵ね。」
彼女は目をキラキラさせながらそう言った。その表情はいくら歳をとっているとしても女の子だった。
「ここで飲もう。」
2人は赤レンガ倉庫にあるBARに入った。
窓際の席に案内された。
白ワインをボトルで注文したのだが、会話をしながら飲んでいるとあっという間にボトルは空になってしまった。
カウントダウンをどこで過ごすかという話題になり、結局BARで過ごすことになった。
ちなみに横浜のみなとみらいでのカウントダウンは観覧車の時計と共に花火が打ち上げられるため、多くの人が集まる。
ふと時計を見ると23時だった。
カウントダウンに備え赤レンガ倉庫に多くの人が集まってきていた。
それに逆流するように2人は関内駅方面へと向かった。
「ほんとに横浜に来れて良かった。本当に楽しいね。」
彼女はdaiceの腕を掴みながら笑顔でそう言った。彼女の表情を見てもその言葉は決して嘘には聞こえなかった。
綺麗な夜景に美女。
これ以上に誰が他に欲するものがあるだろうか。そう思った。
いや、まだやるべきことが残っていた。
今夜必ず彼女を抱かなければならない。
daiceには恋人も女友達もセフレもいらない。
失う覚悟を持つ。





第4章〜決着〜

2人は3軒目のBARのカウンターに肘をつき、座っていた。彼女はフルーツカクテル、daiceはマッカラン17年をオンザロックで注文した。
茶色の基調としたシックなBARで、バーテンダーは蝶ネクタイを締めている。
カウンター席には何組かの客が慣れた様子でバーテンダーと話している。
「あと1分で今年も終わっちゃう。」
彼女がそんなことを呟いたタイミングでシャンパンが差し出された。

「5...4...3...2...1...ハッピーニューイヤー!!」

それぞれで店内の人々が乾杯し、喜んでいる。
「おめでとう。今年は去年よりも楽しもう。」
「そうね。まだdaiceくんと出会ったばかりだし、これから楽しもうね。」
2人はシャンパンを重ねた。
話を聞くと彼女には2人の子供がいた。
小学5年生と3年生らしい。
その事実に一瞬動揺したが、それがバレないように必死で表情と声を繕った。
そんなことを聞いても意味がない。
聞かないほうがいいことは聞くな。そう自分に言い聞かせた。
最後にマティーニを2つ注文した。
時刻は26時を過ぎていた。
そろそろ決着をつけないとな、daiceは心の中でそう思った。
気がつけば2人は酔いが回っていた。

「もう一軒だけ行こう。」
「いいよ。私が奢るからフラフラになるまで飲んでもらうね。」
daiceは彼女の手を引いてホテル前まで来た。

「今日はここのホテル取ってあるから、ここで休んでいこう。」

彼女の表情が一瞬で切り替わったのがわかった。

「それはだめ。大晦日は電車走ってるからそれなら帰るよ。」

「それでもキミのために予約したし、シャンパンも用意してある。」

「シャンパンなんてどこのホテルでも飲めるからいらない。」

 その言葉にdaiceは腹が立ってしまった。大学生が38歳の相手を喜ばせるためにホテルをとり、シャンパンを用意したこと。それが大きな出費だったことを全く理解されなかった。

「それなら俺はすぐ帰るから、キミだけ泊まっていきなよ。」

「いやdaiceくんが泊まっていけばいいじゃん。私は付き合ってない人とはホテルにはいかないの。」

「今、俺の誘いを断るなら永遠にさよならだし、永遠に連絡しないけど。」

「そうね。残念だったわ。」

「出会えて良かった。でもキミとはこんなつまらない関係で終わるとは思わなかった。」

「つまらない関係でごめんね。」

今までの信頼関係が一瞬にして崩れたのがわかった。
彼女とは修復不可能だ。

「それなら帰ろう。」

daiceは敗北を喫した。
彼女を駅まで送り届けるために歩き出す。
いまだ繋がれていた2人の手はdaiceが振りほどいた。
JR関内駅の改札前、どちらともなく無言で別れた。
これが永遠の別れになることは2人共心のどこかでわかっている。
2人で過ごした楽しかった時間、そして信頼関係は一瞬にして崩れ去った。







〜13歳歳上の女〜最終章   完

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