「あと5分で着いちゃう。大丈夫?」
彼女からのLINEを見たのはレストランを予約した1時間前だった。
「了解。〇〇の入口に集合で。」
daiceは既にカフェで読書をしていたため、その打診を受け入れることにした。
本来ならホテルから逆算して、待ち合わせ時間を設定し、全て計算通りに行動するのがお決まりとなっていた。
しかし同じパターンでのデートにも飽き飽きしていた部分もあり、成り行きに任せても大丈夫なのではないか?という疑問も浮かんでいたため検証してみることにした。
保育士のミキ(偽名)は不安そうな表情でやってきた。
「やぁ、ミキ。歯医者お疲れ様。」
daiceはミリオンダラースマイルをぶつけた。
彼女は不安そうな表情から笑顔に切り替わった。
女性を安心させるのは簡単だ。笑顔で彼女の目を見てあげればいいのだから。
歯医者だったことは先日電話で話したため、知っていた。
さぁこれから予約までの1時間どうするか。
今日はその場での思考、判断で行動する。
歩きながらカフェを横見するも、混んでいる。
土曜日の今日、横浜駅は活気がある。
普段以上の人々がネオンの宿る街を行き交い、そして吸い込まれていく。
「BARで食前酒を飲んでいこう。」
ミキは承認した。
BARに入店し、ビールとピーチカクテルを注文した。
彼女は保育士の21歳だ。
小さめの身長に細身のシルエット、全身白のニットとスカート、マフラーだった。
若干幼い顔立ちだが、髪の毛は艶のある黒の巻き髪で大きな瞳はなかなか魅力的だ。レベルでいえば7くらいだろうか。
街で隣に連れて歩いても特に劣等感は感じない。
彼女とは町田でナンパして出会った。買い物ルーティーンで勝手について行き、カフェ連れ出しをした後、また後日ということで番ゲをして別れた。
その際、連れ出しすることも番ゲすることもなかなか難しかった。
今日が厳しい戦いになることは感覚として感じられていた。
BARでの1時間は元彼との未練や、ミキの友達の悪口をされたことにより、daiceの中で恋愛対象から外れた。
これで邪念に捉われることなく、口説くことができる。
「そろそろ行こう。」
daiceとミキはBARを出て、すぐ近くのレストランに入った。
一番奥の席に案内された。
「乾杯。」
かちんとグラスが重なる音と共に2杯目のビールを喉に流し込む。
いつもと違うことは既に連れ出し、尚且つ電話、BARをしていたため、新たに話すことがあまりない。
職場、趣味、恋愛への価値観などを聞き出して、適当に相槌を打つ。
二軒目でカラオケか満喫に行くつもりなので、その話題を出して種を蒔いておく。
おそらく彼女も退屈な食事だったに違いない。
お会計を済ませた。
「悪いけど二軒目は割り勘にしてもらうよ。」
この一言で二軒目に行くことが決まった。
外に出るとだいぶ冷え込んでいた。
彼女はお酒に強いようだ。全く酔っていない。
彼女は二軒目に行く場所をカラオケ、満喫、BARの全てを否定してきた。
「ねぇ、その辺散歩しない?私歩くの好きなの。」
ミキはそう言ってきた。
彼女はdaiceに何を求めている?
俺は何を提供すればいいんだ?
彼女には常にアッシー君、メッシー君が存在するなど、承認欲求が強いと感じられた。
いつも追われる立場なのだ。
時計を見るとまだ21:00だった。
「帰ろう。」
daiceは冷めた表情で遠くを見ながらそう言った。
相手に主導権を渡すわけにはいかない。
「えー、わかった。もう反論しないからdaiceくんが決めて。」
彼女はハッとしたように一瞬悩んでそう言った。
そのまま彼女を連れて漫画喫茶に入店した。
入店し、2人で壁に座り込み何分経っただろうか。
性に対する価値観を引き出す。
「私は付き合ってないと絶対にそういうことしないからね。」
「あっそ。」
彼女の心にはそのような信念があるようだった。
「キミは本当は甘えたいタイプだよね。」
【甘えさせるルーティーン】
そう言って抱き寄せる。
「このほうが安心しない?」
彼女はこくっと頷く。
「自分のキスに点数つけるなら何点?」
【キスの自己評価】
わからない、と悩んでるうちにキスをする。
そのまま倒れ込み、ギラつく。
「やめて...」
「わかってる。やめなきゃ。」
と言いつつ、ギラつき続けた。
その後押して引いてを繰り返したが、なかなか進まない。
「私、いくら好きな男でも付き合ってないと絶対にやらないの。」
彼女の信念を曲げることは不可能だと思えた。
「出会えて良かったよ。ありがとう。そろそろ帰ろうか。」
時刻も23:00を過ぎていた。
daiceはそう言いながら最後にキスをして、身支度を始めた。
彼女は一瞬萎れた顔を見せた。
2人は外に出た。
手を繋いで彼女を改札まで送る。
彼女は強く握り返していた。
むしろ別れ際にdaiceが手を離そうとしても小指だけ握り続けてくるような状態だった。
「俺から誘わないからさ、次はキミが誘ってよ。」
「私も自分から誘わないの。」
「それならさよならだね。」
「わかった。私から誘うから。だけど私から誘うことがどれだけ貴重なことかよく考えてよね。」
そう約束して、笑顔で解散した。
最近のdaiceは結果が出ない。
猫紐理論が足りない。
大きなギャンブル的な引きに頼りすぎ、細かい押し引きが下手だ。
そして全てが雑だった。