駅前の喫煙所で煙草をふかしながらdaiceは今夜のゴールへのイメージを逆算する。
「今日もレストラン、カラオケ、ホテルの3ステップでサクッと口説いてやるか」
daiceが呟いた言葉は、メビウスライトの煙のように舞い上がり、そして消えていった。
今週は仕事の面で非常にハードな一週間だった。
daiceの住む地域では新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除され、以前のように週5日の出勤の日常に戻ってしまった。
在宅勤務で支店経営が悪化しており、残りの2週間で収益を取り戻すために普段以上に詰めが激しい会社となっていた。
daiceは今夜、女との約束がある。
先週末にdaiceが1人でストリートナンパをしていたところ、その場でご飯に行く約束をした23歳の女だった。
残業だけは避けたいところだったが、仕事は20時前に奇跡的に終わる事ができたのだった。
退社し、外に出たdaiceはすぐに彼女に電話をかけた。
「...daiceだ。20時半頃には着けそうだが、どうだ?」
「大丈夫だよ、20時半に行くねー」
彼女との電話を着ると続けて居酒屋の予約を行い、準備が整ったdaiceは急行列車に乗り込んだ。
駅前の喫煙所でゲームモードに心を切り替えたdaiceは待ち合わせ場所に向かった。
彼女はすぐにやってきた。
茶髪のショート。
小柄で細身の身体には薄手のワイシャツにスキニーにスニーカーという格好だった。
「さぁ、いくよ」
ミリオンダラースマイルでdaiceは声をかけた。
心の中でゴングが鳴った。
ゲームの始まりだ。
彼女をいつものルーティーンでネグながら予約したレストランに向かう。
反応は悪くない。
レストランではビールとグレープフルーツサワーで乾杯した。
「出会いに乾杯」
daiceは毎回同じ会話を行う。
話してみた最初の印象は、幼い、コミュ症気味なのか少しクセがあると思った。
話したところ看護師をしている23歳で南の地方から仕事でこちらに来ており、一人暮らしをしている。
3姉妹の次女。
彼氏は3か月くらい前に別れたという。
恋愛遍歴を深く引き出す。
「それでも元カレになにかしらの魅力があったから付き合ったんだろ?」
少し愚痴気味に元カレの事を話す彼女にdaiceは聞いた。
「元カレは押しが強かったの。それだけ。」
daiceと彼女は4杯ほどお酒を飲み、だんだんと胃袋も満たされてきた。
「浮気くらいした事あるだろう?」
daiceはセックスのハードルを確認し、下げる作業に入った。
「浮気はないよ」
「そうなんだ。俺は浮気の1つや2つあって当然だと思ってる」
「まぁそうかもね」
「付き合ってない人とヤッたことはあるか?」
「それはあるかな」
「daiceくん遊んでそうだね。でも遊び人はモテるよ。」
daiceはこの会話からゴールまでの道筋がイメージできた。
あとはスマートに2人が1つになれる場所に彼女を搬送するだけだ。
[レストラン→カラオケ→ホテル]の3ステップで進むつもりだったが、daiceの過去の経験や、感覚から[レストラン→ホテル]の2ステップでいけると見た。
「俺がゲイじゃなかったら、すげえタイプだったんだけどな。」
daiceはこの前ナンパバイブルの"ザ ゲーム" を読み返してこの言葉をナンパした女に使ってみたいと思っており、ここぞとばかりにドヤ顔で言った。
「は?」
会計を済ませた2人はレストランを出たところで彼女の手を握った。
彼女からの握り返しは、悪くない。
いける。
「母ちゃんからの郵便物届いてるか確認だけさせてもらっていいかい?」
daiceはホテル前で彼女に言った。
「郵便物の確認だけだよ?」
彼女は笑いながら着いてきた。
部屋に入り、2人は整えられた白いベッドに滑り込んだ。
準即。
無事行為を終えた2人は疲れ果てて眠った。
「なんでここまで来てくれたの?」
帰り際、daiceは彼女に聞いた。
「郵便物届いてるって言われたから笑」
もっとロマンスな一言を期待してたわ。